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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(オ)15号 判決 1989年9月21日

主文

原判決中、被上告人の上告人松井雄吉及び同折田武志に対する附帯請求のうち、「金六七六二万五二九五円に対する昭和四九年八月九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員」を超える金員の支払請求を認容した部分並びに被上告人の上告人川崎康治に対する附帯請求のうち、「金六七六二万五二九五円に対する昭和四九年八月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員」を超える金員の支払請求を認容した部分を破棄する。

右各部分につき、被上告人の控訴を棄却する。

その余の本件上告を棄却する。

訴訟の総費用は上告人らの連帯負担とする。

理由

一  上告代理人諏訪裕滋の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯するに足り、右事実及び原審の適法に確定したその余の事実関係のもとにおいて、上告人らは、それぞれ原判示の拓富商事の代表取締役又は取締役として、被上告人が被った、拓富商事振出に係る第一審判決別紙約束手形目録記載の一五通の約束手形(以下「本件各手形」という。)の手形金合計額相当の損害につき、被上告人に対し、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条ノ三第一項前段所定の責任を免れることはできないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

二  職権によって調査するに、原判決は、次のとおり法令の解釈適用に誤りがあり、一部破棄を免れないものというべきである。

1  原審は、本件各手形の手形金合計六七六二万五二九五円に相当する損害金に対する附帯請求として、上告人らに対し、(一)本件各手形のうち適法に呈示された一四通の約束手形の手形金合計額に相当する六六三五万〇七九五円に対する各支払期日以後である昭和四八年一二月三一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員、(二)本件各手形のうち呈示期間内に呈示されなかった約束手形一通の手形金額に相当する一二七万四五〇〇円に対する本件訴状送達の日の翌日(上告人松井雄吉及び同折田武志につき同四九年八月九日、上告人川崎康治につき同月六日)から支払済みに至るまで年六分の割合による金員の各支払を命じている。

2  しかしながら、被上告人が主張する商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二六六条ノ三第一項前段所定の損害は、本件各手形の手形金の支払を得られなかった時点で確定的に発生し、以後手形法所定の法定利息の額に相当する損害を生ずる余地はなく、したがって、被上告人の右附帯請求は、右手形金相当の損害賠償債務の遅延損害金を請求するものと解すべきところ、右損害賠償債務は、法が取締役の責任を加重するため特に認めたものであって、不法行為に基づく損害賠償債務の性質を有するものではないから(最高裁昭和三九年(オ)第一一七五号同四四年一一月二六日大法廷判決・民集二三巻一一号二一五〇頁、同昭和四九年(オ)第七六八号同年一二月一七日第三小法廷判決・民集二八巻一〇号二〇五九頁参照)、履行の請求を受けた時に遅滞に陥り、かつ、右損害賠償債務は、商行為によって生じた債務ともいえないものであるから、その遅延損害金の利率は民法所定の年五分の割合にとどまることが明らかである。そうすると、被上告人の附帯請求のうち、「金六七六二万五二九五円に対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員」を超える金員、すなわち、金六六三五万〇七九五円に対する昭和四八年一二月三一日から本件訴状送達の日まで年六分の割合による金員及び金六七六二万五二九五円に対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分を超える割合による金員の各支払請求をも認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきであるから、右部分につき、原判決は破棄を免れず、前記説示に照らし、被上告人の附帯請求中、右各金員の支払請求を棄却した部分に関する被上告人の控訴は失当として棄却すべきである。

三  よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条、九二条但書、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤哲郎 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一)

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